
介護費は親のお金で賄うのが原則?子が立て替えると後で揉める理由
この記事の要点
- 介護費用は「親のお金で賄う」が原則とされます。介護保険制度も、自己負担分を本人の年金や資産で払う前提で設計されています。
- 子の立て替えは、記録がないと贈与や生活費と区別がつかず、相続の場面で「使い込みの疑い」や「清算されない貸し」として揉め事の火種になりがちです。
- 介護の負担は近くに住む子・時間の融通が利く子に偏りやすく、お金と労働が混ざり合うことで換算できない不満が蓄積します。
- 認知症などで判断能力が低下すると、親の口座からお金を動かせなくなる場合があります。代理人カードや任意後見・家族信託など、元気なうちの備えが重要とされます。
- 立て替えが避けられないときは「記録・共有・合意」の3点セット。領収書の保管、きょうだいへの定期共有、まとまった額の書面化が基本です。
介護のお金の揉め事は、金額そのものではなく「誰の財布から出たか、後から証明できないこと」から生まれます。
なぜ「誰が払うか」は、これほど切り出しにくいのか
親の介護が現実味を帯びてきたとき、多くの人がまず不安になるのは「いくらかかるか」です。けれど実際に家族関係を軋ませるのは、金額そのものよりも「誰の財布から払うか」という問題のほうだと言われます。
共働きで時間に追われるなか、施設の申込金や介護用品の購入を、とりあえず自分のカードで払う。きょうだいに請求するのも気が引けて、そのままにしておく。こうした小さな立て替えの積み重ねが、数年後、相続の場面で大きな火種になることがあります。
「損をしたくない」と感じることは、薄情なことではありません。介護は長期戦だからこそ、最初にお金の原則を整えておくことが、結果として家族の関係を守る手立てになります。
原則は「親の介護は親のお金で」とされる理由
介護費用について、専門家の間で広く共有されている原則は「親の介護は、親のお金で賄う」というものです。冷たく聞こえるかもしれませんが、これには合理的な理由があります。
第一に、介護は期間が読めません。一般に介護期間は平均で5年前後、10年を超えるケースもあるとされます。子の家計から出し続ければ、自分たちの教育費や老後資金を侵食しかねません。第二に、介護保険制度そのものが、サービス利用料の自己負担(原則1〜3割)を本人の年金や資産で払う前提で設計されています。
また、民法上、子には親への扶養義務があるとされますが、一般には「自分の生活を維持したうえで、余力の範囲で援助する」性質のものと解されています。子が自分の生活を削ってまで全額を負担することは、制度も想定していないのです。
※要介護度・所得・地域・サービス内容で大きく変わります。自己負担割合もご確認ください。
立て替えが相続時に揉める、その構造
問題は、立て替えが「後から検証できないお金」になりやすいことです。立て替えた費用は本来、親に返してもらうか相続の際に清算されるべきものですが、記録がなければ、贈与だったのか、生活費だったのか、本当に親のために使ったのか、誰にも証明できません。
| 立て替えた側の認識 | 他のきょうだいからの見え方 |
|---|---|
| 親のために自腹を切ってきた | 本当にそこまで使ったのか、確かめようがない |
| 負担した分、相続で考慮してほしい | 事後に一方的に請求されたと感じる |
| 親の口座から必要経費を払っただけ | 使途が見えず「使い込み」を疑ってしまう |
さらに、相続の場面で「介護費を負担したのだから多くもらいたい」と主張しても、一般に寄与分として認められるハードルは高いとされます。通常の扶養の範囲と評価されやすいためです。つまり立て替えは、感情的には「貸し」なのに、法的には清算されにくいという非対称を抱えています。
きょうだい間の不公平は「距離と情報」から生まれる
介護の負担は、きょうだいの間で自然に均等になることはまずありません。近くに住んでいる、時間の融通が利く、親に頼まれて断れない——そうした事情のある一人に、お金も労働も偏っていくのが典型です。
やっかいなのは、金銭の負担と、通院の付き添いや身体介護といった労働の負担が混ざり合い、互いに換算できないことです。「お金は出したのに評価されない」「毎週通っているのに労いがない」という不満は、どちらも本人にとっては正当なものです。
加えて、離れて暮らすきょうだいには現場の情報が届きません。介護の実態を知らなければ「そんなにかかるはずがない」と感じるのはむしろ自然で、疑いは人格ではなく情報の非対称から生まれます。だからこそ費用の記録と共有は、「信頼の証明」というより「不信の予防」として機能します。
親のお金で払える状態を、親が元気なうちに
原則どおり親のお金で払うには、実務的な準備が必要です。特に注意したいのが、認知症などで判断能力が低下すると、本人の口座から家族がお金を引き出せなくなる場合があることです。いわゆる「口座凍結」の問題で、こうなってから資金を動かすには、成年後見制度の利用を求められることが一般的とされます。
- 資産の棚卸し: 年金の月額・預貯金・保険・不動産を、おおまかにでも把握する機会をつくる
- 支払い口座の一本化: 介護費の支払い元を親名義の口座に決め、家族で共有しておく
- 事前の備え: 代理人カードの発行、任意後見制度、家族信託など、判断能力低下に備える選択肢を検討する
お金の話は切り出しにくいものですが、「介護の準備」ではなく「もしもの備え」として、帰省などの機会に少しずつ進めるのが現実的です。各制度は要件や費用が異なるため、地域包括支援センターや司法書士・弁護士など、専門家に確認しながら進めるのが確実です。

それでも立て替えるなら、「記録・共有・合意」の3点セット
急な入院や施設入居の場面では、子の立て替えが避けられないこともあります。そのときは、次の3つをあらかじめルール化しておくと、後の揉め事をかなり減らせるとされます。
- 記録: 日付・金額・用途を必ず残す。領収書を保管し、介護専用の口座や家計簿アプリで自分の家計と分別管理する
- 共有: きょうだいに月次など定期的に報告する。「聞かれたら答える」ではなく、先に開示する姿勢が不信を防ぐ
- 合意: まとまった額の立て替えや、返済・清算の方法は、簡単なものでよいので書面(覚書)に残す
立て替えは「善意」で始まり、「証明できない善意」のまま終わることが、揉め事の正体です。記録は自分を守るためだけでなく、家族の関係を守るためのものです。
まとめ
介護費は「親のお金で賄う」が原則とされ、介護保険制度もそれを前提に設計されています。子の立て替えは、記録がなければ相続時に清算されにくく、使い込みの疑いや不公平感というかたちで、きょうだい関係に長く影を落としがちです。
大切なのは、親が元気なうちに「親のお金で払える状態」を整えておくこと。そして立て替えるなら、記録・共有・合意の3点を欠かさないことです。制度の詳細や個別の判断は、地域包括支援センター、FP、税理士・弁護士などの専門家に確認しながら進めてください。お金の原則を先に決めることは、家族の情を損なうものではなく、むしろ守るための知恵です。
立て替えトラブルを防ぐ実践チェックリスト
- 親の年金月額・預貯金・保険・不動産を、おおまかにでも把握する機会をつくる
- 介護費の支払い元を親名義の口座に一本化し、きょうだいで共有する
- 代理人カード・任意後見・家族信託など、判断能力低下への備えを親と話し合う
- 立て替えたら日付・金額・用途を記録し、領収書を必ず保管する
- 費用と役割分担を、きょうだいに月次など定期的に報告する場を持つ
- まとまった額の立て替えは覚書など書面に残し、必要に応じて専門家に相談する
よくある質問
親に介護費を出してもらうのは薄情ではありませんか?
一般に、介護保険制度は自己負担分を本人の年金や資産で払う前提で設計されており、「親の介護は親のお金で」は専門家の間でも広く共有される原則とされます。子の家計を守ることは介護を長く続けるための土台であり、薄情とは考えられていません。具体的な資金計画はFPなど専門家に相談すると安心です。
親の口座が凍結されたら、介護費はどうなりますか?
認知症などで判断能力が低下すると、金融機関の判断で本人口座からの引き出しが制限される場合があり、一般に成年後見制度の利用を求められることが多いとされます。対応は金融機関によって異なるため、取引先の金融機関や地域包括支援センター、司法書士などに早めに確認するのが確実です。
立て替えたお金は、相続のときに返してもらえますか?
領収書や記録があれば、相続財産からの清算を主張できる場合があるとされますが、記録がないと証明が難しく、寄与分として認められるハードルも一般に高いとされます。金額が大きい場合は、立て替えの時点で書面を交わし、税理士や弁護士に相談しておくことが目安になります。
きょうだい間の負担割合は、どう決めればよいですか?
法律で一律の割合が決まっているわけではなく、話し合いで決めるのが基本とされます。金銭だけでなく通院付き添いなどの労働負担も含めて可視化し、定期的に見直すのが現実的です。話し合いが難しい場合は、地域包括支援センターや専門家を交える方法もあります。
文・編集/世帯白書 編集部 ・ 監修:準備中(公開時に有資格者を明記します)