
相続税がかかるのはどんな世帯?基礎控除と早めの対策の基本
この記事の要点
- 相続税がかかるかは、まず基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を財産総額が超えるかで決まる。超えなければ申告すら不要なことが多い。
- 都心・近郊に持ち家がある共働き世帯は、自宅の評価額だけで数千万円。預貯金・有価証券・生命保険を足すと、自覚なく基礎控除を超えているケースが多い。
- 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は税額を激減させるが、「税額ゼロでも申告して初めて使える」ものがある。知らずに無申告だと特例が飛ぶ。
- 配偶者に寄せすぎる一次相続は、二次相続で子が地獄を見る。世帯トータルで設計しないと逆に損をする。
- 40代の今動くべきは、生前贈与・生命保険の非課税枠・財産と分割方針の共有の3つ。早いほど効く。
相続税がかかるかは、まず基礎控除額を財産総額が超えるかで決まる。
「うちは資産家じゃないから関係ない」が一番危ない
相続税は全員にかかる税金ではない。亡くなった方の財産合計が基礎控除を超えたときだけ発生する。逆に言えば、基礎控除以下なら相続税はゼロ、申告も原則いらない。ここまではシンプルだ。
問題は、多くの人が自分の財産総額を一度も数えたことがない点にある。漠然と不安なまま放置するか、「資産家じゃないから無関係」と決めつけるか。後者のほうがよほど危ない。都心で家を買った共働き世帯は、本人の自覚がないまま課税ラインを超えていることがざらにある。やるべきことは一つ、自分の財産総額と基礎控除を並べて見ること。順に進めよう。
※掛金上限・税率・家族構成・他の控除で大きく変動します。実額はシミュレーションでご確認ください。
第一歩は基礎控除の計算。これだけは暗記していい
基礎控除額の式はこれ一本だけだ。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
「法定相続人」は民法で決まった相続人。夫が亡くなり妻と子2人が残れば3人で、基礎控除は4,800万円になる。家族構成ごとに並べるとこうなる。
| 家族構成(法定相続人) | 人数 | 基礎控除額 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1人 | 3,600万円 |
| 配偶者+子1人 | 2人 | 4,200万円 |
| 配偶者+子2人 | 3人 | 4,800万円 |
| 配偶者+子3人 | 4人 | 5,400万円 |
財産総額がこの額を超えるかどうかが最初の分かれ道だ。ひとつ注意。相続放棄した人がいても、人数のカウントには含める。養子は数えられる人数に上限がある。再婚・養子・代襲相続などで家族構成が入り組んでいるなら、人数の数え方そのものでつまずきやすいので、判定の入口から税理士に当たっておくほうが早い。
財産の棚卸し。預貯金しか見ていないと足をすくわれる
次に課税対象の財産を全部洗い出す。見落としの定番は、預貯金以外だ。以下はすべて対象に入る。
- 不動産:自宅の土地・建物、投資用物件。土地は売買価格ではなく路線価などの相続税評価額で見る。
- 預貯金・現金:すべての口座残高。タンス預金も当然対象。
- 有価証券:株式・投資信託・債券。
- 生命保険金・死亡退職金:受取人固有の財産だが、税計算上は「みなし相続財産」として加える(後述の非課税枠あり)。
- その他:自動車、貴金属、ゴルフ会員権、人に貸している金など。
ここから借入金・未払い税金などの債務と葬式費用を引く。さらに、亡くなる前の一定期間内にした生前贈与の一部は財産に戻して計算する。この加算期間は近年の改正で延びる方向に動いているので、足し戻す範囲は必ず最新を確認してほしい。
都心や近郊の持ち家世帯では、自宅の評価額だけで数千万円。そこに預貯金・有価証券・生命保険を積み上げれば、4,800万円の基礎控除など簡単に超える。年収が高く貯蓄もある共働き世帯ほど、この数字は跳ねる。まずは概算でいい。自宅の評価をざっくり置いて、一度紙の上で合計を出すこと。これをやらずに不安だけ抱えるのが一番もったいない。
税額を一気に削る、二つの強力な特例
基礎控除を超えても、まだ慌てなくていい。相続税には税額を大幅に下げる特例がある。共働き・持ち家世帯に効く二つを押さえる。
配偶者の税額軽減
配偶者が相続した分は、法定相続分相当額か1億6,000万円のどちらか多いほうまで相続税がかからない。多くの一次相続では、配偶者の税はほぼ消える。
ただし、ここに落とし穴がある。配偶者に寄せて一次相続を非課税で乗り切ると、その配偶者が亡くなる二次相続で、軽減も使えず控除も減った状態の財産が丸ごと子に行き、重い税が一気に乗る。一次だけ見て最適化すると、世帯トータルでは損をする。配偶者にいくら寄せるかは、二次相続まで通して試算して初めて判断できる。
小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた自宅の土地は、要件を満たせば評価額を大きく減らせる。居住用宅地は限度面積まで評価が大幅に下がるため、自宅が財産の柱になっている世帯ほど効く。ただし同居していたか、誰が引き継ぐかなどで適用要件が細かく分かれる。ここは自己判断せず専門家に当てる領域だ。
そして最重要の注意点。これらの特例には「適用した結果、税額がゼロでも相続税の申告をすること」が条件になっているものがある。「特例で税金ゼロなら申告いらない」と思い込んで無申告にすると、特例そのものが使えなくなり、本来ゼロのはずの税が普通にかかる。ここで取りこぼす人が後を絶たない。
40代の今から打てる、対策の3本柱
40代は、相続を「受ける側」としても「次へ渡す側」としても考え始める好機だ。最大の武器は時間。早く始めるほど効くものばかりだからだ。
1. 生前贈与を計画的に回す
生前に財産を少しずつ移せば、相続時の財産を圧縮できる。主な手は二つ。
- 暦年贈与:年110万円までの基礎控除内で贈与する。コツコツ型だが、亡くなる前の一定期間内の贈与は相続財産に戻されるため、効果を出すには早く始めるしかない。50代60代から駆け込むと加算でほぼ消える。40代で始める意味はここにある。
- 相続時精算課税制度:一定額まで贈与時非課税にし、相続時に精算する。近年、毎年使える基礎控除が設けられるなど使い勝手が改善され、有力な選択肢になった。
どちらが得かは財産規模と家族構成で逆転する。しかも一度精算課税を選ぶと暦年贈与には二度と戻れない。勢いで選ばず、選ぶ前に必ず両方を試算すること。
2. 生命保険の非課税枠を使い切る
死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある。相続人3人なら1,500万円まで非課税。現金でそのまま遺すより評価上有利で、受取人を指定できるから、納税資金の確保や特定の子への配分にも使える。預貯金が分厚い世帯ほど、ここは効く。枠を空けたまま放置している人は、まずこの枠を埋めるところから検討していい。
3. 財産と分割方針を、家族で共有しておく
地味だが、揉め事を一番防ぐのがこれだ。どこに何の財産があるかを一覧にし、いざというとき家族が即座に把握できる状態にする。さらに、誰に何を渡したいかを整理し、必要なら遺言に落とす。相続は税金の問題である前に家族の問題だ。分割が固まらず期限内にまとまらないと、小規模宅地等の特例の要件を満たす分け方ができず、特例が飛んで税負担が膨らむ。感情のもつれが、そのまま税の上乗せになる。
では、何から動くか。この順番でいい
不安を行動に変えるなら、この順で進めるのが最短だ。
- 法定相続人を確定する。誰が相続人かを整理し、基礎控除額を出す。
- 財産をざっくり棚卸しする。不動産・預貯金・有価証券・保険・退職金・債務を一覧化。自宅評価は概算でいいので、まず合計を出す。
- 基礎控除と比べる。超えなければ過度に心配しない。超えそうなら次へ。
- 特例の見込みを確認する。配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例が使えそうか、要件を当てる。
- 対策を選び、税理士に試算を頼む。生前贈与・生命保険・分割方針を、二次相続まで通して検討する。
住まいやお金の全体像から整理したいなら、現状を入力して方向性をつかむところから始めてもいい。無料診断で世帯の状況を棚卸ししておくと、税理士に相談するときの話も一気に早くなる。

おわりに
相続税は、放置すれば不安だけが太る。だが「基礎控除と比べる」というたった一点から手をつければ、見通しは一気に晴れる。判定し、棚卸しし、特例と対策を知る。この順で動けば、40代の今からでも十分間に合う。動かないことだけが、唯一の確実な損だ。
なお、本記事で触れた税率・控除額・特例の要件・贈与の加算期間などは2024〜2025年時点の一般的な制度の説明であり、法改正で変わる。実行前に国税庁などの公式情報を確認し、税理士に相談したうえで判断してほしい。
相続税、まず動くための5ステップ
- 法定相続人を確定し、基礎控除額(3,000万円+600万円×人数)を出す
- 不動産・預貯金・有価証券・保険・退職金・債務を一覧化し、自宅は概算で財産総額を出す
- 財産総額を基礎控除と比べ、超えそうかどうかを確認する
- 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例が使えそうか要件を当てる
- 特例は税額ゼロでも申告が必要な点を踏まえ、無申告で取りこぼさない
- 生前贈与・生命保険・分割方針を、二次相続まで通して税理士に試算を頼む
よくある質問
相続税はどんな世帯にかかるのですか?
相続財産が基礎控除額を超える場合に課税対象となります。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が一般的な算式とされますが、改正で変わり得るため、最新は国税庁の公式情報や税理士へご確認ください。自宅と預貯金だけでも都市部では超えることがあります。
基礎控除の範囲内なら申告は不要ですか?
財産が基礎控除以下であれば、原則として相続税の申告も納税も不要とされています。ただし配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合は、適用のために申告が必要です。判断に迷う際は専門家にご確認いただくのが安心です。
早めにできる相続対策にはどのようなものがありますか?
一般に、生前贈与の活用、生命保険の非課税枠、財産の把握と分割方針の共有などが基本とされます。いずれも適用要件や非課税枠は制度改正で変わり得ます。世帯の状況により最適解は異なるため、具体的な金額や手法は税理士やFPへの相談をおすすめします。
配偶者がいると相続税は軽くなりますか?
配偶者には税額を大きく軽減する制度が設けられており、一定額までは課税されないのが一般的とされています。ただし二次相続まで見据えないと、かえって全体の負担が増える場合もあります。適用要件や金額の最新は公式情報や専門家へご確認ください。
文・編集/世帯白書 編集部 ・ 監修:準備中(公開時に有資格者を明記します)